書籍のご案内

ベルクソンの道徳・宗教論

大崎 博 著
本体価格 2,800円(+税)
ISBN 978-4-915348-80-8
サイズ A5判  上製  本文 215ページ

ベルクソンの著作の出版は、遺言のとおり没後暫くの間は生前に許可されていたものだけに限定されていた。しかし、未公刊であったものが少しずつ活字に直されるようになり、1990年には、若きベルクソンがリセで行った講義録が編集されて大部な書物として出版された。
本書では、著作のうちでも主として『創造的進化』と『二源泉』を取り上げている。講義録との関連で言えば、道徳論の部分はベルクソンの全著作の時系列のうちの初めの位置にくるもので、『二源泉』との間にはかなり長い時間的な間隔がある。にもかかわらず、基本的な論理においてはあまり大きな齟齬はないように思われる。『二源泉』のうちに見られる先行道徳学説の短い批判的解釈がすでに『講義録』の中に、それももっと詳細な形で見出されることには驚きを禁じえない。講義録を読む限り道徳論もけっして『二源泉』において唐突に登場してきたテーマではないことがよく分かる。長い間、それもごく初期の段階からベルクソンのうちで暖められていたテーマではあったが、主題的に論じられるようになったのは『二源泉』に到ってであると考えたほうがむしろ自然な解釈であろう。
内容から見ると、ベルクソンの哲学の一つの特徴であるが、道徳論の論理展開においてもやはり二元的な構成法がとられている。対になっている閉じた道徳と開いた道徳という対照のうちに読み取れるのは、生成に重心を置くベルクソンのダイナミックな道徳思想である。ベルクソンが指摘しているのは拘束と強制の禁止道徳で、常に人々を権威と権力によって中心に向けて引っ張り続ける道徳である。この力の中心は共同態の根底から働いており、道徳は発生の当初から本質的にそうした性格のものであった。したがって、理念としての開いた道徳を目指すダイナミックな運動こそが実際の道徳が進んで行くべき道だということになる。そして、社会に新しい道徳を形成してゆくための衝撃力を与えることのできる人がベルクソンのいう道徳の「超人達」である。ベルクソンのいう絶対道徳が実現された時に現れるユートピア的な道徳の共同態は、約束の地ではないのである。前進の力は、われわれ個々人が自己の内面深くから紡ぎ出していく以外に生まれてこないという考えである。未来の道徳の共同態を構築していくための形成的運動のプロセスが現実の倫理・道徳である。これまでのベルクソン研究においては、ベルクソンの道徳論のこうした優れた特質にあまり光が当てられてこなかった。本書の道徳論の部分はこの点に焦点を絞って考察したものである。
本書全体の内容は、道徳論と宗教論は共に発生論的考察という最晩年のベルクソンの新しい視点と方法論によって論じられているという筆者自身の解釈に基づいて構成されている。従ってまた、本書はこうした解釈に基づいて、発生論的な視座からベルクソンの道徳論と宗教論を整合的に読み直し再評価しようとする試みである。その際、筆者が最も留意した点は、できるだけベルクソンの哲学に即してテクスト内在的な読解を行おうとしたことである。  (まえがきより)

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